安藤鳴人相談室① 恋人がニューヨークに…

詩誌「なだぐれあ」創刊号(1987年10月発行)所収

安藤鳴人相談室①

恋人がニューヨークに……

【質問】恋人がニューヨークに行ってしまいました。秋風のヴィオロンのススリ泣きです、まったく。「あたし、アメリカで暮らすことに決めた。別な自分を発見できると思うの」
「アメリカに頼る自己探求なぞ、おまへ、精神の衰弱だと思はないか」――ぼくは世界のミシマ気取りで絶叫してみました。
「お願い、行かせて。この国って、あたしには窮屈なのよ、やっぱし」
 身長175センチ、クツ26センチの元モデルがこう決心するのは、赤子の手をひねるようなものだったのかもしれません。
「それじゃ、ぼくはどうすんの」――こんどは小島信夫ふうに哀訴してみました。
「サイズが違うって結構きついのよ。じゃあね、バイバイ」
 ――それでプッツン。さて、ぼくはこの失恋をいったいどう悲しむべきでしょうか。お教えください。 (失恋の悩み方がわからない若い男性)

【答え】この相談室はシリアスなお悩みに、沈着冷静にお答えするのを旨としておるので、こういうご質問は大歓迎です。読者の方々にとっても、この若者の悩みは正しい悩み方のお手本として、大変参考になるものです。
 しかし、世界のミシマ気取りはいけませんね。小島信夫しかりです。♪赤い靴履いてた女の子、異人さんに連れられて行っちゃった――結構じゃありませんか。日本女性はみんな異人さんに連れられて行ったほうが幸せになれるのです。それじゃ日本の国が男だけの怪物ランドになってしまう、ですって? いいえ、ご心配には及びません。そうなれば異人さんの国では、女異人さんがあぶれだし、大挙して黄金のジパングへの渡航を開始するからです。
 そうなったらもう、あなた。数十年後の日本に繰り広げられる光景というものは、あなた……プロ野球の世界では、日本選手と外人選手の見分けがつかない、などの事態だって起こりえます。「4番、バッター、ホーナー3世」というウグイス嬢の声で打席に入ったのが、若松選手そっくりだったりして(もちろんこの場合は、現ホーナー選手の一人息子が現若松選手の二人の愛嬢のどちらかを≪連れてった≫ことが大前提であるわけです)、思わず微笑を誘われることでしょう。
 先日、江藤淳氏からうかがったお話しですが、戦後史秘話のひとつに、マッカーサーが「日本の赤ん坊からモウコハンを消してしまえ!」と命令したというのがあるそうです。もっともこれには裏話がありまして、マ元帥が忙中閑お忍びで京都に遊び、のんびりと日本情緒にひたっていたところ、突然ひとりのマイコハンから、降るアメリカに袖は濡らさじ、されたらしいのです。プライドをへし折られたマ元帥は日比谷のGHQ本部に戻るやいなや「京都からマイコハン制度をなくしてしまえ!」と怒号したところ、慌てた側近がこれを「赤ん坊からモウコハンを消してしまえ!」と聞き違え、それをGHQ内に伝達したのだそうです。
 これなども、打ちひしがれたあなたを大きな希望に導く、良いお話しなのではないでしょうか。
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