安藤鳴人相談室④ どうしていじめられると自殺しちゃうのかな?

詩誌「なだぐれあ」第4号(1989年2月発行)所収

安藤鳴人相談室④

どうしていじめられると自殺しちゃうのかな?

【質問】もしもし、「全国こども電話相談室」ですか? えっ、ちがう? 無着成恭先生じゃないんですか? 安藤鳴人先生? やだア、そんな人知らないモン! でも、ついでだからいいや。安藤先生ね、12月22日の朝日新聞にこんな記事が出ているんですけど。<21日午前1時ごろ、富山市奥田寿町の市営住宅4階の424号室から、同室に住む調理師岩脇克巳さん(48)の長女で市立奥田中学1年寛子さん(13)がパジャマ姿で高さ1.1メートルのベランダを乗り越えて飛び降り、約10メートル下のコンクリートにたたきつけられ死亡した。富山署は、寛子さんの机の引き出しから、級友のいじめを苦にした遺書が出てきたため、自殺と断定、学校関係者から事情を聴いている。
 調べによると、遺書は3通。そのうち1通には「ねえ、この気持ちわかる。組中からさけられてさ 悪口いわれてさ あなただったら 生きていける。わたし もうその自信ない。お父さんお母さんありがとう」「みんなたかがいじめくらいでという人もいるけど わたしのはそんなに甘くない。ありがとう私にやさしくしてくれたみんな、ここまで育ててくれたお父さんお母さん。わたしはこの世が大きらいだったよ」と書かれていた。また、いじめられた6人の同級生(女子)の名前を挙げ、「許さんよ」とも書いていた。>
 そこで無着先生に、じゃなかった、安藤先生に質問します。どうしてみんないじめられると、自殺しちゃうんですか?(安藤鳴人相談室を「全国こども電話相談室」と勘違いした女の子)

【答え】もしもし、お嬢ちゃんは何年生かな? そう、小5。ええと、誰に似ているのかな。クラスの子たちは「浅香唯」に似てるって言うの。じゃあ、人気者なんだ。おじさん、いや安藤先生も一度会ってみたいな。……もしもし……ごめん、ごめん、本題に入ろうね。
 お嬢ちゃんは誰かをいじめたこともないし、いじめられたこともないよね。柄谷っておじさんを知ってる? この柄谷のおじさんがね、小中学生のいじめ問題について<ここでは異質な者がスケープゴートとなる。しかし、本当に異質なのではないのです。異質な者などいないからこそ、異質性がみつけられねばならないのですね。云々>と解説しているのよ。でも、この人の言い方だと、いじめられる子がなぜ自殺しちゃうのかは説明つかないよね。自殺って共同体内の差異性の問題じゃなくて、異質性そのものだもんね。安藤先生の言うこと、解かる? おりこうさんだね。そうか、浅香唯に似てるの。
 もう一人、吉本っていうお爺さんのこと、知ってるかな? このお爺さんが子供の頃見た、有名な夢のお話しがあるのよ。それはどういう夢かというとね、友達とみんなで一緒に切腹しようというんで、それじゃ自分が最初にやってみせようと真っ先に切腹したら、周りのみんなが青くなって逃げちゃった、という裏切りのお話し。……なにが可笑しいの? そうか、吉本のお爺さん、たんなる慌て者だって。
 でもね、このお話しこそいじめの本質を衝いているのだよ。だって、裏切りといじめは表裏の関係だし、切腹って自殺そのものだからね。昭和63年の全国小中学生のいじめ件数は1万2523件、自殺件数はたったの59件(文部省調べ)。データの比較だけでみると、いじめと自殺の相関関係は薄いようにみえるけど、文化論的に考えるとおおいに関係ありなわけ。解かる? なに、切腹はやっぱり共同体内の問題じゃないかって? 生意気いうんじゃないの! そうなの、浅香唯に……まあ、いいや。
 中野富士見中の鹿川裕史クンが死んだとき、<人間にとって一番大切なものはいのちではない。一番大切なものがいのちなら、人がなぜ自殺を選ぶのか説明できなくなる>なんて慷慨調で朝日新聞に書いてた児童問題の先生もいたけど、こういう言葉はマユツバで聞いておきなさいね。いのちが一番、電話は二番、三時のおやつは……電話間違えないでね。じゃあね、さよなら、ガチャン。ふう……
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