武藏三十三番札所二十七番のこの古刹には、ご近所の鞠野さんのご主人(仮名:享年67歳)が眠っている。今から二十年も前になるが、母がそろそろお別れしてくるように促すので、市立病院に慌ててお見舞いに行ったとき、奥さんが「あなた、哲王さんが来てくれましたよ」と呼びかけたその声に即座に反応して、<よお>みたいな形でさっと右手を上げてくれた。それを目にして、まだまだ大丈夫だろうと思って安心していたのだったが、やはりそれから数日して逝ってしまったのだった。
鞠野さん宅と我が家とは、今でも家族ぐるみの付き合いだ。見るからにお硬い役人のご主人だったが、やくざな職人気質の私の父とはへんにウマが合ったようで、よく一緒に越谷市蒲生の「鳥よし」にタクシーを呼んでは呑みに行っていた。大学生の私を役所の職場仲間たちのスキーに誘ってくれたこともあるし、私のほうは息子さんの家庭教師をしていたこともある。これを描きながら、そんなあれこれの思い出に浸っていると、この絵の左側に並ぶ墓石の向こうから、ふとあの<よお>という手を上げて、その鞠野さんがいまにも姿を現すような気がした。
