このアパートのすぐ近くには向井潤吉の絵に出てくるような一軒の古い農家がある。東日本大震災のときは屋根瓦がだいぶ剥がれ落ちていた。それが近ごろこの家では、私より少し若そうな息子さんが亡くなって、その嫁さんを姑さんが遺産もろくに分け与えず追い出してしまった、嫁さんは弁護士を立てて係争中…という噂が近所に流れた。姑さんのほうは毎日泥まみれになって農作業にいそしむ一方、嫁さんは嫁さんでそういう家業に馴染めなかったのか、いっさい農作業を手伝わず毎日犬の散歩を日課にしているような女性だったので、いっさいお付き合いのない近所の住人としては、そういう成り行きもむべなるかなと素直にその噂に納得したのだが、ともあれ憎悪が渦を巻く大きな屋敷の隣に建つのが<平和>荘というのは、どうにも笑えない冗談ではある。
