2015年10月11日、フランス、ストラスブールの旧市街、プチットフランス(小フランス)、水彩

この旧市街区域はストラスブールのうちでも水路が多いところで、川べりまでいかにもアルザス地方らしい瀟洒なコロンバージュ(木骨組み)の建物が林立している。とりわけカラフルな建物群を選んで描いた。このポイントは投宿したホテルのすぐそばに位置していたので、ランチやトイレの事を考えずに済み、のんびりと絵筆を走らせることができた。背後の土手の遊歩道をひっきりなしに観光客が行き交う。インド人青年の写真に収まり、スペイン娘と話し込みながら昼前までに大枠を描き終えた。ホテルに戻ってスペシャリテ(地元特産)のタルト・フランベでランチ。午前中天気は良かったのだが空気が冷たくこたえていたので、その頃常備していたパスティス(南仏の地酒)でやっと暖を取り戻すことができた。午後もういちど描き始めると徐々に日差しが暖かくなり、すると細部の仕上げがどんどん楽しくなっていった。夜はほやほやの自作をちょちょっと補筆しながら、ホテルの部屋で夕食。近所の食堂で買ってきたケバブとクロナンブール(缶ビール)とアルザスワイン。
じつを言うと、この絵は「口直し」に描いた1枚なのだった。この三日前、私はここストラスブールにほど近いコルマールの市内に居て、やはり旧い運河に架かった橋の上から、これとよく似たコロンバージュ風景をスケッチしていた。人通りも少なく天気も良く、快適なひとときだったのだが、さあこれからという頃、突然どやどやと10人ほどの日本人団体がやってきて、周りでスケッチブックを開き始めた。聞けば東京の某有名絵画教室のスケッチ旅行だという。みなさん私より年配らしく、先生のご指導のもと愉快げに会話を弾ませながら絵筆を運んでいた。そして彼らの作業はこれぞスケッチの極意といわんばかりにめっぽう素早くお手並み鮮やかだった。やがて一斉に帰り支度をしながらてんでに私に話しかけてくる。そのうち分別くさい老人が「どこの絵画教室に通っているの?」と訊いてきた。「誰にも習っていません。道楽に先生は要りませんもの」と答えると、ひとこと「いや、誰かに習わないとダメですよ」。それを捨てゼリフに、みなさんどやどやと帰っていった。あまりにあまりに日本人だなとシラケてしまい、なんだか絵を描き続ける気が失せて私もそそくさとその場を立ち去って、カテドラルの真横にあるJHという屋号のカフェで、厄払いでもするように呑んだのだった。この店の常連たちは楽しく、アルザスビールも地元名産ベックオフ(肉じゃが)も美味しかった。