鳴人秘帖(暮らしの秘帖)

――つれづれなるままに、心にうつりゆく由なしごとは絶えずして、かつ消え、かつ結びて久しくとどまりたるためしなし。されば男もすなる日記といふものをわれ鳴人もしてみむとてすなり

◆この冬、コロナに罹った。症状は軽く、すぐに平常生活に戻れたが、咳だけはしつこくて毎日ダラダラとうち続いた。近くのドラッグストアでいちにちおきにのど飴を買っていたら、気をきかせた店員さんが「新型コロナの咳は長く続くそうですよ。のど飴だと糖質の摂り過ぎになりますから、オリーブオイルをスプーンですするといいですよ」と教えてくれた。それほどの効き目もなかったが、のど飴の甘さから解放されて気はラクになった。

◆丸亀製麵チェーンの店舗には赤いプラスチックのレンゲが置いてある。レンゲというものは必ずしも中華料理や鍋物だけにつきものの食器ではないようだ。もともと西日本の文化であるうどんの店にレンゲが置いてあるのは西日本人には当たり前なのかも。でも東北人の私にはちょっとオドロキ。それはそうと、この丸亀製麺のレンゲがわが家には4コほど置いてある。すみません、最寄りの丸亀製麵からガメてきたものです。
 以前使っていた瀬戸物のレンゲがひとつ、またひとつと割れてしまったので、ある日うどんを食べに行ったとき、ひとつだけ失敬して使ってみたら、これが使い勝手がいい。重からず軽からず、大きからず小さからず。おたま部分の深さも具合がいい。そして何よりも、計量スプーンの<大さじ>とぴったり同じサイズなので料理に便利なのだ。ちなみにわが家では、計量カップのほうもワンカップ大関の空き瓶を流用している。メモリがついてないから不便? 目分量で大まかに計っても、料理というものは充分美味しく出来上がる。
 実を言えば、この丸亀製麺のレンゲと同じものを探そうと、何度か浅草・河童橋の道具屋街をぶらついたことがある。しかし似た製品を置く店はあるものの、まったく同じ形状のものはどこでも扱っていなかったのだ。丸亀のは、お店の特注備品なのだろうと理解して、やむなくあと3回ガメさせてもらったというわけである。

◆毎日近所のスーパーに、その日の夕食の材料を買い出しに行く。最近、珍しい経験をした。近所にはカスミ、ヨークマート、ベルク、ベルクス、イオン等々いろいろあって、いつもその日の気分であの店、この店と決めて出かけるのだが、たまたまその日出かける前に財布を覗くと、5000円しか入っていなかった。まあ、今日の分を買うのには充分だろうと、一万円札の補充はせずに行ったのが間違いのもと。この日利用したスーパー<R>は、この日に限ってたまたま半額シールの貼ってある商品がやたら多かったのだ。私は品物に半額シールが貼ってあると、反射的に、あるいはムラムラと買い物かごに入れてしまう悪いクセがある。それでもその日、そこまでの買い物かごに入れたのは5000円で充分おつりがくる範囲内だった。
 ところが、精肉コーナーを覗くと、普段はヨダレたらしつつ見て見ぬフリで通り過ぎる高級和牛の陳列棚の各パックにも軒並み半額シールが貼ってあるではないか。料理しにくそうなブロック肉とか牛スジ、牛スネは無視して、残りの半額商品を全部買い物かごに入れて暗算してみた。いけね、2万円近い。それで買い物かごをいったんサービスセンターに預け、「カネを取りに行ってくる」と頼んで家にカネを取りに行き、またまた大わらわで<R>に舞い戻ったのだった。
 ところで、<R>の店内サービスカウンターの隣には、レジを通ったお客さんたちがその足で商品をマイバッグに詰め替える台が並んでいる。その日たまたまサービスカウンターにいた女店員さんは、むかしからの顔なじみで店内でよく立ち話をする仲なので、そのときも財布の補充をしなかったそそっかしさ加減のバカ話などしながら、例の高級和牛の入った買い物かごを彼女から受け取ったのだった。しかし、ほんとならカネを払うべくレジに向かうべきところを、まだ彼女とバカ話を続けて、そのまま詰め替え台の所でマイバッグに詰めてしまったのだ。詰め替え台にいるということは、レジを済ませたということだと勘違いしたわけだった。あげく、「じゃあね」と店を出てきてしまった。むこうも何ひとつ不審には思わず、ただ「ありがとうございました」と。
 いつも私は、なんであれ買い物をしたレシートは財布に入れておいて、いちにちの終わりにその日の出費を反省すべく、金額をチェックする習慣が身についている。しかるに、その日は財布のなかにあるべき<R>のレシートが見当たらない。あれ、捨てたのかとも思ったが、よくよく考えてみると、レジを通っていないことに気づいたのだった。一世一代の大万引き、大成功!